特定商取引法に基づく表示はどこまで必要?省略できるケースと記載例

目次
- 1. オンライン販売に欠かせない「特定商取引法(特商法)表示」とは
- 2. 特商法の対象となる「通信販売」と「特定権利」
- 3. 特商法の表示義務の全体像
- 4. 事業者情報の表示ルール
- 5. 価格・支払い・引き渡しに関する表示
- 6. 返品・キャンセル・中途解約のルール
- 7. 広告で“表示を省略できる”ケース
- 8. 表示義務に違反した場合のリスク
- 9. まとめ
1. オンライン販売に欠かせない「特定商取引法(特商法)表示」とは
ネットショップやデジタル教材の販売、オンライン講座など、中小企業でもオンラインで商品やサービスを提供する機会が増えてきました。
その流れの中で、ほぼ必ず関わることになるのが 「特定商取引法に基づく表示」、いわゆる“特商法表記”です。
最初にこの言葉を聞くと、「 どこまで書けばいいの?」、「 うちのサービスも対象になる?」といった疑問が出てくると思います。この記事では特商法の基本から記載例までわかりやすく解説します。
1.1 「特定商取引法」とは何か?
特商法は、簡単に言えば “消費者トラブルを防ぐためのルールを定めた法律” です。
とくに、ネット販売のように顔を合わせない取引では、購入者が判断材料を得にくいため、事業者側に以下が求められます。
- どんな事業者なのか
- どんな商品・サービスを販売しているのか
- お金を支払う前に知っておくべき条件は何か
- 何かあったときに連絡がとれるのか
こうした情報をきちんと“事前に”示すことで、誤解やトラブルを防ぐのが目的です。
つまり、特商法表記は
「売り手と買い手の情報格差をなくすための仕組み」 と言えます。
オンライン販売では、店舗のように説明したり現物を見せたりできません。
だからこそ、表示内容が曖昧だとトラブルに発展しやすく、特商法でも細かい表示義務が定められている、というわけです。
1.2 特商法表記は“信頼をつくる基本情報”

特商法表記は法律上の義務ではありますが、単に決まりだから書く、という話ではありません。
オンライン販売は対面と違い、事業者の雰囲気や信頼性を読み取りづらいため、購入者は 表示されている情報から安心できるかどうかを判断します。
- 運営している会社はどんなところ?
- サービスの提供方法は?
- トラブル時に連絡が取れる?(=電話番号が特に重視される)
こうした情報が整っていると、購入者側の不安がぐっと減り、事業者としても問い合わせ・トラブルの防止につながります。
1.3 “実物がない商品”が増え、特商法の重要性はさらに高まっている
近年増えているのが、次のような 形のない商品・サービスです。
- PDF・動画教材
- noteやBrainのデジタル記事
- オンラインサロン
- コンサル契約
- 月額制のスクール
- SaaSやツールの利用権
- SNS・メルマガを経由した販売
こうしたサービスは便利な反面、提供内容が見えないぶん、誤解や認識のズレが起きやすいのが特徴です。
また、これらは「特定権利」という分類に入るケースも多く、表示義務が通常の通信販売よりも細かくなります。
1.4 「通信販売」と「特定権利」

WEBに関わる特商法には2つの分類があります。
- 通信販売
- 特定権利
どちらに該当するかで、書かなければならない項目が変わるため、最初の判断が非常に重要です。
この違いについては、次の章でしっかり整理していきます。
2. 特商法の対象となる「通信販売」と「特定権利」
特商法の表示内容を整理するうえで、最初に理解しておきたいのが「自社のサービスがどちらの分類に該当するのか」という点です。
分類は大きく分けて以下の2つ。
- 通信販売
- 特定権利
この区分を正しく押さえておくと、表示すべき項目の抜け漏れが防げ、運用もしやすくなります。
まずはそれぞれの考え方を整理していきましょう。
2.1 多くのオンライン販売は「通信販売」に該当する
“通信販売”という言葉はやや古い印象がありますが、特商法では非常に幅広い取引が該当します。
ポイントは、「対面せずに、ネットやメールなどを通じて注文を受ける販売方法」であること。
つまり、実際には次のような販売方法はほぼすべて通信販売に分類されます。
- ECサイト(Shopify/BASE/STORESなど)
- 物販全般
- note・Brainの有料記事
- PDF・動画・デジタル教材の販売
- オンライン講座や動画コース
- LINE・SNSのDM経由で受付
- メルマガやLPの決済リンクから購入
解釈としては「ネットで販売する=通信販売」と考えるのがもっともシンプルです。
扱う商品がモノかデジタルか、単発か継続かは関係ありません。
2.2 “権利を購入する”タイプのサービスは「特定権利」に当てはまる
もう一つ押さえておきたいのが 特定権利 という分類です。
特定権利とは、「一定期間、サービスや情報を利用できる権利を販売する” 形態」を指します。
単発の商品を販売する通信販売とは性質が異なり、会員制や継続利用が前提になるサービスが多いのが特徴です。
■ 特定権利に当てはまる主な例
- オンラインサロン
- 有料コミュニティ
- コンサルティング契約
- 継続型のレッスン・コーチング
- 月額制のスクール
- 情報提供サービス
- SaaS・クラウドツールの利用権
- 継続的なカウンセリング契約
こうしたサービスは、ユーザーが購入時点で「未来に受けるサービス内容」を判断する必要があります。
そのため、表示義務も通信販売より細かく設定されています。
2.3 判断が迷うときに役立つ「4つのチェックポイント」
実務では、「これは通信販売?それとも特定権利?」と判断に迷うケースが頻繁にあります。
判断の目安として、次の4つを確認すると整理しやすくなります。
| 1.利用期間が設定されているか | 月額制/年額制など |
|---|---|
| 2.“会員として利用する”構造か | 購入後に専用スペースへ参加する、など |
| 3.継続的なサービス提供が含まれているか | サポート・相談・レッスン・閲覧権など |
| 4.商品ではなく“利用する権利”を販売しているか | アクセス権・利用権・参加権がある |
これらに当てはまるほど、特定権利の可能性が高くなります。
2.4 分類によって求められる情報が変わる
分類が違えば、記載すべき項目も異なります。
| 通信販売 | 価格、送料、支払い方法、引き渡し時期など |
|---|---|
| 特定権利 | 期間、提供内容、更新の有無、中途解約、返金ルールなど |
特定権利は、契約条件の明確さが特に重要視されるため、サービス内容をあいまいにしたまま公開するのは避けたいところです。
2.5 販売方式が複数ある場合は、サービス単位で整理する
教材・講座・コミュニティ・SaaSなど、複数の提供形態を扱っている企業では、サービスごとに分類を明確にしておくと表示作成がスムーズになります。
- 単発販売 → 通信販売
- 会員制/月額制 → 特定権利
- SaaSやツール → 多くは特定権利
- コンテンツ販売 → 通信販売(ただし組み合わせによっては特定権利に近づく)
この整理が曖昧だと、
- 必要な記載が抜けていた
- 解約条件を記載していなかった
- 返金ルールが不足していた
といった問題が起こりやすくなります。
3. 特商法の表示義務の全体像
「通信販売」と「特定権利」のどちらに当てはまるかが分かったら、次に押さえておきたいのが “何を表示しなければいけないのか” という部分です。
特商法の表示義務は細かく見えるものの、実務では 頻度が高い項目 と 抜けやすい項目 を中心に把握しておけば、スムーズに運用できます。
この章では、まず全体像を整理し、後の章で個別項目をより深く扱っていきます。
3.1 通信販売で求められる主な表示項目

通信販売に該当する場合、特商法上「最低限これは載せてください」という項目が15個あります。
ただし実務では、その中で特に重視されるのは次の項目です。
| 事業者の名称 | 法人の場合は法人名。 屋号で販売する場合は屋号も記載します。 |
|---|---|
| 所在地(住所) | 法人であれば登記住所を記載するのが一般的です。 |
| 電話番号 | 特商法上、購入者が「連絡手段を確保できる」ことが重要なため、 電話番号は特に重視されています(問い合わせの窓口となる情報)。 |
| 販売価格 | 税込で総額表示が必要です。 |
| 送料・その他の負担 | 送料、振込手数料、代引き手数料、海外配送の追加料金など 「購入者が負担する可能性がある費用」はすべて記載が必要。 |
| 代金の支払い時期・方法 | 支払い方法の列挙ではなく、 支払い時期は決済方法ごとに書く必要があります。 例
|
| 商品の引き渡し時期 | 物販は「発送」について、デジタル商品は「ダウンロード可能になるタイミング」などを明記。 |
| 返品・交換(返品特約) | もっともトラブルが起きやすい項目です。 表示しない場合、法律上のデフォルト(8日以内返品可)が適用されてしまうため注意が必要です。 ※返品特約は後の章で詳しく説明します。 |
3.2 特定権利に該当する場合、追加で必要になる表示
特定権利に該当するサービスの場合、通信販売よりも 細かい“契約条件の説明”が必要になります。
単発の商品と違い、「どんなサービスを、どれくらいの期間、どの条件で受けられるのか」を購入者が判断できるようにするためです。
代表的な項目は以下のとおり。
| 提供するサービス(権利)の内容 | 抽象的な説明では不十分で、どんな機能・サポート・コミュニティ・情報が含まれるのか、購入者がイメージできるレベルで明確にします。 |
|---|---|
| 利用できる期間 | 月額制・年額制・6ヶ月コースなど、期間を具体的に。 |
| 提供開始日 | 申し込み後すぐなのか、月初なのか、指定日があるのか。 オンラインサロンは特に曖昧になりやすい項目です。 |
| 自動更新の有無 | 継続課金の場合は必須。 更新のタイミング、停止方法なども含めて書くのが望ましいです。 |
| 中途解約の条件 | 途中で退会・解約できるか、またその手続き方法(メール or フォーム)、解約が反映されるタイミングなどを明記。 |
| 解約時の返金ルール |
|
| 注意事項・禁止事項 | コミュニティ運営や情報提供サービスの場合は、違法行為や著作権侵害、迷惑行為などの禁止項目を記載しておくと運用上のトラブル防止につながります。 |
3.3 書き方で特に注意したいポイント
特商法の表示は、形式上書いてあればOKというものではありません。
運用上のトラブル防止という意味で、次の点が非常に重要です。
曖昧な表現は避ける
→「なるべく早く発送」「原則返金不可」などはNG。
判断ができない表現はトラブルになりやすく、実質的に無効になる可能性があります。
購入者が「事前に確認できる場所」に置く
→ ECサイトのフッター、LPの下部、申込みフォーム近辺など、購入前に視認できる導線が必要です。
サービス内容の“省略書き”は危険
→ 特に特定権利では、「内容がよく分からないまま契約した」と言われると、購入者側の主張が通りやすい傾向があります。
複数サービスを扱う場合は、サービスごとにページを分ける
→ 販売方式が複数ある場合、ひとつの特商法ページに全サービスを詰め込むと読みづらく、トラブルの原因にもなります。
3.4 まずは“全体像を掴む”ことが大切
特商法の表示義務と聞くと構えてしまいがちですが、実務で必要なのは次の2点です。
- どの分類(通信販売/特定権利)に当てはまるかを整理する
- その分類で求められる項目を、抜けなく書く
ここさえ押さえておけば、販売形態が増えても整理しやすくなり、特商法表記の作成もずっとスムーズになります。
4. 事業者情報の表示ルール
特商法の表示項目の中でも、とくに質問が多いのが“事業者情報のどこまでを公開する必要があるのか?” という点です。
法人の場合、所在地情報は公開されているケースが多く、むしろ実務で悩まれるのは電話番号の扱いです。
この章では、事業者情報の中でも「どこが必須で、どこが判断が必要なのか」を整理していきます。
4.1 電話番号は基本的に“必須”──最も重視される連絡手段

特商法では、購入者が連絡を取れる手段を確保することが重視されているため、電話番号の記載は原則必須とされています。
よくある質問がこちら
- メール問い合わせ窓口だけではダメ?
- フリーダイヤルでなくてもOK?
- 直通番号じゃないといけない?
メール窓口だけでは原則NG
問い合わせフォームやメールアドレスは、あくまで“任意の追加手段”として扱われます。
電話番号は置き換え不可というのが原則です。
ただし「電話対応が困難な理由」がある場合は例外も
ECサイトなどでは例外的な扱いとして、明確に「電話対応ができない理由(例:常時出張・固定回線なし)」を書いたうえでメール窓口を設置するケースもあります。
ただしこれはイレギュラーであり、審査のあるプラットフォームでは認められないことも多いため注意が必要です。
4.2 法人の場合“住所より電話番号が重要”と言われる理由
法人住所は登記情報として公開されているため、多くの購入者にとって「住所の記載」は信頼性を確認するための形式的な項目に近い側面があります。
一方で電話番号は、実際の購入者からは以下のように捉えられます。
- 問題が起きたときに連絡が取れるか?
- サポートの窓口が存在するのか?
- 購入後にトラブルがあった場合に対応してもらえるのか?
特にデジタル商品やオンラインサービスの場合、“リアルな接点が電話番号だけ”というケースが多く、信頼性を左右する要素として重視されやすいのが実情です。
4.3 電話番号の掲載でよくある悩みと対応策
「代表電話を載せてもいい?」
→ 問題ありません。
窓口にたどり着ける仕組みがあればOKです。
「ダイレクトにつながる番号では困る」
→ 担当部署の番号、もしくは代表電話で受付し、担当者へ取り次ぐ形式でも問題ありません。
「電話対応の時間帯は指定できる?」
→ 可能です。その場合は次のように明記しておくと丁寧です。
例:平日10:00〜17:00(年末年始を除く)
「コールセンター委託はできる?」
→ 可能です。委託先の番号を記載しても問題ありません。(ただし必ず事業者名は自社名を記載)
4.4 表示場所は“購入前に見える位置”が前提
事業者情報は、購入者が購入前に確認できる場所に設置する必要があります。
代表的な設置場所は以下。
- ECサイトのフッターや個別ページ
- 申込みフォームの直前
- LPの最下部
- 利用規約の横並びリンク
見落とされがちですが、「リンクはあるが、リンク先で電話番号が載っていない」というケースは違反扱いになります。
5. 価格・支払い・引き渡しに関する表示

特商法の中でも、価格や支払い方法まわりは 誤解が起きやすく、問い合わせも多い項目です。
「書いているつもりでも抜けている」「言葉の選び方でトラブルになる」といったケースが非常に多いため、ひとつひとつの項目を“曖昧にしない”ことがポイントになります。
この章では、通信販売と特定権利の両方に共通するポイントを整理しつつ、実務でつまずきやすいところを詳しく解説します。
5.1 販売価格は“税込の総額表示”が必須
価格表記は、もっとも基本的でありながら、ミスが多い部分でもあります。
特商法では、消費者が支払う最終的な金額(=税込)が分かることが求められています。
税込総額は必ず表示する
→ 「5,000円(税込)」などが基本。
税抜価格を併記することは問題ありませんが、税込が分かることが絶対条件です。
サブスクや月額制の場合
→ 月額、年額のどちらを課金しているのか、誤解が起きないように明記します。
例:
- 月額3,300円(税込)
- 年額プラン:12か月で◯◯円(税込)
5.2 送料・手数料・追加費用は“全部書く”
「記載し忘れ」が起きやすいのが、送料や手数料などの追加費用です。
特商法では “購入者が負担する可能性があるもの”はすべて記載必須です。
送料
- 地域別で変わる場合 → 地域と金額を明記
- 送料無料ラインがある場合 → “◯◯円以上は送料無料”と記載
銀行振込手数料
→「お客様負担」と具体的に書く必要があります。
代引手数料
→ 金額を明記するか、一覧表へのリンクを記載。
デジタル商品であっても追加費用がある場合
→ 例:オンライン講座で「テキスト冊子の郵送費用が別途必要」などがあれば必ず記載。
海外配送の場合
→ 追加料金、関税負担の有無なども記載しておくと安心です。
5.3 支払い方法・支払い時期の書き方は“決済手段ごと”が基本
「支払い方法:クレジットカード・銀行振込・コンビニ払い…」のように、一覧で書くのは一般的ですが、支払い時期は決済手段ごとに記載する必要があります。
例:
- クレジットカード: 注文時に決済が確定
- 銀行振込: 注文後◯日以内
- コンビニ払い: 支払い期限は◯日以内
- 後払い: 請求書発行後◯日以内
まとめて書いてしまいがちですが、ここがあいまいだと「期限を知らなかった」というトラブルの原因になります。
5.4 引き渡し時期
引き渡し時期も意外と抜けやすい項目です。
物販の場合
→「注文後◯日以内に発送」「入金確認後◯日以内に発送」など、具体的な日数を明記します。
デジタル商品(PDF・画像・動画など)
- 決済完了後、すぐにダウンロード可能
- メールにてURL送付(送付完了=提供完了)
など、提供のタイミングが分かるように書きます。
オンライン講座・動画視聴サービス
→ 単なるデジタル商品ではないため、「視聴開始日」が明確になる表現が必要です。
例:
- 決済後、24時間以内に視聴用URLをお送りします
- 開講日より視聴開始となります
5.5 特定権利(サロン・コンサル等)の場合は“提供開始日”が特に重要
特定権利サービスは、単発の商品ではなく“利用権の販売”であるため、開始日の曖昧さが大きなトラブルにつながります。
よくあるあいまい表現(NG例)
- 「申し込み後、順次ご案内します」
- 「なるべく早くご案内します」
- 「準備ができ次第スタート」
これだと、いつ提供されるか判断できません。
正しい書き方の例
- 「申し込み完了後、24時間以内に開始のご案内を送付します」
- 「毎月1日が開始日となります」
- 「初回面談日が提供開始日です」
オンラインサロンやコンサルは、提供内容・期間・開始日の明確化がとても重要なため、“購入前に必ず確認できる場所”に掲載する必要があります。
5.6 “支払い・提供・料金”はセットで整合性を取る
価格・支払い・引き渡しは互いに関連するため、表記がバラバラだと、購入者が混乱したり、意図しないクレームにつながります。
ありがちなミス
- LPと特商法ページで金額が違う
- 送料の条件が複数ページで食い違っている
- “決済後すぐ提供”と書いているのに、別ページでは“◯◯日以内に提供”となっている
対応策
- LP・ECサイト・特商法ページを同時に更新する
- キャンペーン価格と通常価格の記載を整理する
- サブスクの場合は、自動更新の記載と支払い時期を統一する
特商法表記は、「契約条件の一覧」 として機能するため、細部の整合性がとても重要になります。
6. 返品・キャンセル・中途解約のルール

返品・キャンセル・解約に関する記載は、特商法の中でももっとも誤解が生まれやすい部分です。
特に最近増えているデジタル商品やオンラインコミュニティ、コンサルティング契約などでは、運営側と購入者の認識がズレやすく、書き方ひとつでトラブルが大きく変わります。
6.1 返品特約は“絶対に”表示が必要
まず大前提として、返品特約(返品・交換ルール)を明記しなければならないと法律で決まっています。
もし記載がない場合、法律上は自動的に次のルールが適用されます。
「商品到着後8日以内なら返品可能」
これは企業側が意図していなくても適用されてしまうため、必ず “返品特約を明記する” ことが必要です。
よくあるNG
- 「返品は受け付けません(理由なし)」
- 「原則返品不可」
- “返品不可です(詳細なし)”
曖昧な表現は無効扱いになる可能性があります。
記載すべき内容
- 返品できる条件/できない条件
- 返品期間
- 送料は誰が負担するか
- 不良品対応の手順
6.2 デジタル商品(ダウンロード形式)の返品ルール
PDF・画像・動画などのデジタル商品は、一度ダウンロードされると返却ができないため、基本的に返品不可に設定できます。
ただし、次が必須です。
「ダウンロード後の返品はできません」
この文言をはっきりと明記することが絶対条件です。
NGな書き方
- “原則返金不可”
- “ダウンロード後の返品は原則できません”
- “基本的に返金できません”
「原則」や「あいまいな限定語」があると無効になる可能性があります。
LP・ECサイト・特商法ページで統一する
1ページだけ書いて、ほかのページに書かれていない場合もトラブルの原因になります。
6.3 キャンセル(購入後の取り消し)に関する注意点
決済直後のキャンセルは、業種によって多く発生します。
特商法では、キャンセルについてどう扱うかを事業者側が明確に決めておくことが重要です。
キャンセルポリシーに含めるべき項目
- キャンセルを受け付けるかどうか
- 受け付ける場合の期限
- 決済方法ごとの返金ルール(決済手数料の扱い)
- 手続き方法(フォーム/メール)
ありがちなトラブル
- 「返金できると思っていたのに」と言われる
- LPに書いてある内容と、特商法ページの内容が合っていない
- カード会社のチャージバック対応で揉める
事前に明示しておくことで、企業側の負担が大きく減ります。
6.4 特定権利(サロン・コンサル・継続サービス)の“中途解約”が最もトラブルになりやすい
特定権利の提供では、途中解約(中途解約)がもっともハードルの高い項目です。理由は単純で、サービスが“継続”するものだからです。
購入者は「先の期間までの権利を買っている」ため、途中で退会したいという希望が出ることはよくあります。
ここで事業者側が正しく対応できていないと、消費者契約法の観点から契約が無効と判断される可能性もあるため注意が必要です。
NGな例
- 「途中解約は一切できません」
- 「理由にかかわらず返金には応じません」
- 「契約期間中は何があっても支払い続けてください」
これらは違法と判断されるリスクがあります。
6.5 正しい“中途解約ルール”の書き方
中途解約に関しては、以下の項目をしっかり書く必要があります。
契約期間
例:1か月、3か月、6か月、1年 など
解約できる条件
- 月の途中でも解約可能か
- 退会申請からいつ有効になるか
- 自動更新の場合、いつまでに手続きすれば止められるか
返金有無と、その範囲
返金する場合は具体的に(例:未提供分を日割りで返金)
返金しない場合も、「返金しない理由」が必要 です。(“一切返金しません”はNG)。
解約手続きの方法
- メール受付
- 専用フォーム
- マイページでの解約ボタン
- 電話受付
手続き手段を1つに限定すること自体は問題ありませんが、利用者が実行しやすい形にしておくのが望ましいです。
6.6 特定権利は“契約条件=サービス説明”の役割も持つ
特定権利における返品・解約は、商品というより “契約条件の説明” に近い役割を持っています。
そのため、以下のような内容を特商法ページとは別に利用規約として作成し、併せて提示する企業が増えています。
- サービス内容の範囲
- 守るべきルール(禁止事項)
- 自動更新の仕組み
- 解約手続きの流れ
- 返金ポリシー
- 会費の請求タイミング
特商法表記と規約をセット運用することで、サービス運営の安定性が大きく向上します。
6.7 返品・キャンセル・解約は“最初に書くかどうか”が全て
実務では、
- LPには書いていない
- 特商法ページにだけ書いてある
- 条件が複数ページで矛盾している
といったケースが特に多いです。
購入者はまずLPで判断するため、「重要な条件はLPにも明示しておく」ことが理想的です。
特に以下の項目は、LP側でも触れておくと安心です。
- デジタル商品の返品不可
- サロン・コンサルの中途解約ルール
- 自動更新の有無
- 提供開始日の明確化
7. 広告で“表示を省略できる”ケース
特商法の表示義務には、「広告だけ省略できる」という特例があります。
ただし、このルールはイメージが先行して誤解されやすく、“どこまで省略していいのか” を正しく理解していないと、意図せず違反してしまうケースも少なくありません。
7.1 そもそも“広告”とはどこまで含まれる?
まず押さえておきたいのは、“広告”と聞くとバナー広告だけを思い浮かべがちですが、特商法の範囲ではもっと広いという点です。
広告に該当するものの例
- バナー広告(Yahoo!、Google、SNSなど)
- テキスト広告
- SNS広告(三行広告・画像広告など)
- 雑誌や紙媒体の広告
- チラシ・DM
- 交通広告(電車内・駅構内のポスターなど)
つまり、「購入前に利用者を誘導するためのメッセージ」全般が広告に該当します。
7.2 表示を省略できるのは“広告だけ”。商品ページでは不可
特商法上、省略できるのはあくまで 広告のみです。
つまり、
- 広告 → 表示を省略してOK
- LP・申込みページ → 省略不可
- カート・チェックアウト画面 → 省略不可
- ECサイトにある特商法ページ → 当然必須
広告をクリックした先(LPや商品ページ)では、特商法の全項目をそろえる必要があります。
7.3 省略が認められる条件は“2つのセット”
広告の表示を省略できるのは、次の2つの条件を満たした場合だけです。
条件①:広告スペースが明らかに不足している
例:
- Instagramのスクエア広告
- 小さなバナー広告
- 紙の小さな枠広告
- 文字数に制限があるテキスト広告
逆に、スペースが十分あるのに記載しない場合はNGです。
条件②:「請求があれば遅滞なく提供します」と表示する
この文言が抜けていると 省略は無効 になります。
文章は完全一致でなくても構いませんが、意味として同じである必要があります。
例:
「事業者情報はご請求いただければ速やかに開示します」
7.4 SNS広告でよくある“勘違い”ポイント
【誤解】SNS広告なら全部省略できる
→ 誤りです。
広告スペースが小さい場合のみ省略可能。
カルーセル広告や長文SNS広告は省略できないケースが多いです。
【誤解】LPへのリンクがあれば省略できる
→ 原則は省略不可。
スペースが十分ある広告の場合、省略すると違反になります。
【誤解】「特商法はこちら」とリンクを置けばOK
→ 広告の段階では不十分。
「請求があれば遅滞なく提供します」の記載が必要です。
7.5 紙媒体・チラシ広告の扱い
紙媒体も「スペースが足りない広告」に該当しやすいため、原則として省略可能な場合が多いジャンルです。
ただし、下記のような注意点があります。
- A4チラシ全面広告 → スペース不足とは言えない
- DMは両面あるため余裕がある場合、省略不可と判断されることも
- サービス内容を詳しく書いている場合 → 省略不可のケースも
スペースの“広さ”と“情報量”のバランスで判断されます。
7.6 省略できるのは事業者情報だけではない
広告で省略可能なのは、「事業者情報(住所・電話番号など)」だけではありません。
支払い方法、提供時期、返品特約などの表示も省略できます。
ただし、広告をクリックした先のページ(LPや特商法ページ)ではすべての情報を掲載する必要があります。
7.7 広告の内容とLPの内容が食い違うとアウト
広告では省略できても、広告内で書いた情報(料金・条件・キャンペーン内容)とLPの内容が食い違っていると 虚偽表示と判断される可能性があります。
ありがちなズレ
- 広告に「980円」と書いてあるのに、LPでは別料金
- 広告では返金保証あり → LPでは詳細が記載されていない
- 広告で“永久利用”と書いてある → LPでは1年更新制
広告とLPの整合性を必ず確認する必要があります。
8. 表示義務に違反した場合のリスク
特商法の表示義務は「面倒だから後回し…」とされがちですが、実際には違反すると行政処分につながる重要項目です。
特にオンラインサービスやデジタルコンテンツの販売では、事業者と購入者の認識がすれ違いやすく、行政機関に相談が寄せられるケースも一定数存在します。
この章では、実際にどのようなリスクがあるのかを整理します。
8.1 行政による指導・警告
最も軽い処分が 行政による指導・警告 です。
- 表示内容の修正
- 説明の追加
- 販売ページの改善
- 不適切表現の削除
などが行政から求められます。
ここで適切に対応すれば、多くの場合は終了します。
ただし、改善が不十分と判断されると次の段階に進む可能性があります。
8.2 行政指示(改善命令)
改善命令は、実務的にはかなり重い処分です。
内容の例
- 特商法ページの修正(全ページ)
- LP・ECサイトの改善
- 契約条件の全面見直し
- 誤解が生まれる販売文言の禁止
改善命令を受けると、企業としての信頼性にも影響するため、外部への説明が必要になる場合があります。
8.3 業務停止命令(最大2年)
改善命令を無視したり、悪質な違反があると判断された場合は、業務停止命令が出される可能性があります。
業務停止命令とは
一定期間、該当サービスや事業の販売を停止する命令です。
オンラインビジネスの場合、1〜2ヶ月止まるだけでも経営に大きな影響を与えます。
デジタル商品・サロン・コンサル系のビジネスは特に事業依存度が高いため注意が必要です。
8.4 業務禁止命令
違反を繰り返したり、消費者被害が大きいと判断された場合は、業務禁止命令が出されることもあります。
実質的な“事業の停止”レベルの重さ
特定のサービスに限らず、事業全体の禁止に至る例もあり、行政処分の中でも最も重い部類です。
8.5 罰金(法人は最大3億円)
特商法には刑事罰もあります。
個人・法人の罰金額
- 個人:最大100万円
- 法人:最大3億円(両罰規定)
“両罰規定”とは、事業者個人だけでなく法人側にも罰金が課される仕組みのことです。特に特定権利(オンラインサロンやコンサル)では行政処分の例が比較的多く、表示の曖昧さや不備を指摘されやすい傾向があります。
8.6 違反が起きる“典型的パターン”
実際に行政処分が出ている例を見ると、次のようなケースが多いです。
LPの記載と特商法ページの記載が食い違っている
例:LPでは返金保証付き → 特商法には返金条件なし
重要な条件がLPに書かれていない
例:自動更新や最低利用期間など
返品・解約の条件が曖昧
例:各所で説明が異なる/“原則”など曖昧表現
特定権利で必要な説明が足りない
例:期間、提供開始日、中途解約ルールの不足
広告とLPの表記が不一致
例:広告で“980円” → LPが“1,980円”
こうしたズレは「誤認させる意図があった」と判断されやすく、処分につながりやすいポイントです。
8.7 “怖がる必要はないが、油断は禁物”というのが実務的な考え方
特商法の違反リスクは確かに存在しますが、ほとんどの企業は次の2つを守っていれば問題ありません。
- 分類(通信販売/特定権利)に合わせた項目を漏れなく書く
- LP・販売ページ・特商法ページの内容を一致させる
逆に言えば、この2つさえ丁寧に整えていれば、過度に構える必要はありません。
9. まとめ
特商法の表示と聞くと、専門的で複雑なイメージを持たれることが多いですが、この記事全体を通して見ていただくと、実務で押さえるべきポイントは意外とシンプルです。
特にオンライン販売では、購入者との距離が近いようで遠く、顔も見えない取引になります。そのため、「どんなサービスを、どんな条件で販売するのか」 を事前に明確にしておくことが、そのまま信頼性につながります。特商法表記はまさにその役割を担っています。特商法は一度しっかり整えてしまえば、あとはサービス内容の変更時に微調整するだけで運用できます。
- 新しい講座を作る
- 月額サービスを開始する
- デジタル商品を追加する
- LPデザインを刷新する
こうしたタイミングでまとめて見直す仕組みを作ることで、抜け漏れを防ぎやすくなります。オンラインでの取引が当たり前になった今、サービスの内容や条件をきちんと伝えることは、どんなビジネスにとっても欠かせない姿勢になっています。
特商法の表示は、ただのルールではなく、購入者との信頼関係をつくるための“基本姿勢”そのものです。
これを機に一度、自社の案内や条件を見直してみることで、より誤解の少ない、伝わりやすいサービス設計につながるはずです。
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